青蓮寺アートコレクション

青蓮寺アートコレクション×JR呉駅 特別展覧会

呉市伏原に位置する青蓮寺は幅広い分野のアートコレクションで知られています。
コレクションの一部をJR呉駅をご利用される方々にご覧いただきたく、
2021年1月から2022年にかけて特別展を開催いたします。
展示内容を数カ月おきに変えながら、JR呉駅 構内改札前にてコレクションを公開中です。

2020年は世界中の人類にとって試練となる年でした。
このような苦難を乗り越える活力を与えるべく、
呉の市民や駅のご利用者に楽しんでいただけるような美術作品をご紹介いたします。
季節に合わせた風流な作品や、広島に縁のある作品を展覧いたします。

皆さまにご覧いただくことが、私たちにとってこの上ない喜びです。
どうぞ美術の世界をお楽しみいただきますよう、お願い申し上げます。
また、本展にご協力いただいた関係者に深く御礼申し上げます。

日野之彦 《窓の前に立つ》  100×80.3cm 2021年作 油彩、キャンバス

Korehiko Hino

日野之彦氏は、1976年 石川県生まれ。東京都在住。2001年 筑波大学大学院芸術研究科美術専攻洋画分野修了。
現在は多摩美術大学で准教授として教鞭を執りながら、東京やアジアで作品発表を続けています。

日野氏の作品は、大きく目を見開いたような人物ポートレート作品で知られています。
緻密な人物描写で知られていますが、その表情はどこか奇妙さも感じさせます。
人物を描くということは、古くからある絵画の様式の一つです。かつてのポートレートは神話や貴族を美しく描くことを良しとしてきました。
しかし、今を生きる画家は、過去の沢山の作品を参照しながら、この時代において人物を描く意味を考えなければなりません。

先の見えない不安な社会の空気を観察し、人物に託して描く。
この作品はまさに「現代という時代」を私たちに問いかけるような絵画であるといえるでしょう。

杉本克哉 《Dreamer》 130.3 × 162cm 2011年作 油彩、キャンバス

Katsuya Sugimoto

杉本克哉氏は、1984年栃木県生まれ。2011年東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻修了。専門分野は、現代美術と美術教育。主に対称性、反復性、再現性などを主題とした絵画を制作しています。2010年第29回損保ジャパン美術財団選抜奨励展グランプリ損保ジャパン賞受賞。その後、国内外で精力的に作品を発表。近年は東京を中心に展覧会を開催しています。主な展覧会として、個展「YOU ARE GOD」 (hpgrp ギャラリートーキョー、2021年)、「ブレイク前夜展−小山登美夫セレクション−」(代官山ヒルサイドテラス、2020年)などがあります。

本作は2011年に制作されたものです。2011年は私たちにとって忘れることのできない、東日本大震災が発生した年です。杉本氏も震災に大きなショックを受け、世の中にとってアートの持つ想像力は何ができるのかを考えたと話しています。画面に精密に描かれたおもちゃなどのモチーフは、作者の幼少期の思い出や、自身にとって大事にしているものだそうです。

人は成長することで社会と関わりを持つようになります。目まぐるしく進んでいく社会生活の中では、個人の思い出や経験したことの大切さを忘れがちです。杉本氏は作品を通じて、本来誰もが持っている豊かな想像力や、毎日の中にあるささやかな喜びを気付かせてくれます。

サガキケイタ 《怒涛図 男浪・女浪》 2016年作 ペン、紙、木製パネル 100×100cm(2点組)

Keita Sagaki

サガキケイタ氏は、1984年石川県生まれの現代美術家です。サガキ氏の作品は誰もが一度は見たことがあるような良く知られた世界中の名画を下敷きにしています。遠くで見るといわゆる「名画」ですが、近付いてみると無数のキャラクターのドローイングが集まっていることがわかります。幼少期、曼荼羅にインスピレーションを受けたことをきっかけに、混沌としながらも救いのある世界を自身の作品の中に生み出そうとしています。近年は、日本のみならず、ドイツや香港でも個展をするなど活動の幅を広げています。

《怒涛図 男浪・女浪》の元になった作品は、江戸時代を代表する絵師・北斎が1840年代半ばに制作した天井絵です。長寿だった北斎が80歳代に長野県信州小布施に訪れ、同地で制作しました。《男浪》は勇猛、《女波》は抱擁力のある構図で、最晩年の北斎の代表作として知られています。サガキ氏はこの北斎の傑作をモチーフに、キャラクターをびっしりと描くことで自身のオリジナル作品へと昇華しました。躍動する波の飛沫のように、キャラクターが画面一杯に溢れる様は生命の躍動を感じさせます。

岩田壮平 「六々魚」 絹本彩色 59×251cm

Sohey Iwata

岩田氏は1978年愛知県生まれ。幼少期に華道池坊入門し、華道に親しみます。2002年には金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻(日本画)を修了。日展で出品を続け、2005年日展特選、2015年 第6回東山魁夷記念 日経日本画大賞など活動の幅を広げています。現在、武蔵野美術大学教授。日本画壇代表する若手作家の一人です。

華道に親しんだ岩田氏の作品は、壮麗な色彩で知られています。普段は花をモチーフに作品を発表することが多いですが、本作は得意とする鯉を描いています。日本画の技法によって描かれる鯉は、水中で鱗が妖艶に輝きます。天然の鉱石を砕いた絵具で彩色する日本画の持ち味を発揮した傑作です。水魚のように涼やかな気分で、これからの季節をお過ごしいただければ幸いです。是非ともご高覧ください。

瀧下和之 屏風「桃太郎図ノ四百九拾参鬼」

瀧下氏は1975年熊本県生まれ。2001年東京藝術大学大学院(描画装飾デザイン専攻、中島千波研究室)修了。作品は日本画のように見えますが、すべてアクリル絵具で描いています。桃太郎をテーマに愛くるしい鬼が遊ぶ様子を表現し、人気作家として日本全国で展覧会を開催しています。

「桃太郎図ノ四百九拾参鬼」はお花見をしている鬼を描いています。長かった冬を終え、希望に満ち溢れた春を楽しむ気持ちが伝わってくるようです。素晴らしい未来へと花開することを祈り、本作品を展覧いたします。

三輪龍氣生 (十二代休雪/龍作) 「祈り」

Ryukishou Miwa, Kyusetsu XII “Pray”

山口県・萩焼の窯元である名門三輪窯の当主が名乗る名跡である「休雪」。現在は十三代が襲名しておりますが、十二代(現・龍氣生)はアヴァンギャルドな作風で知られています。多岐に渡る自由な作品の中でも、とりわけシリアスな作品が「祈り」です。金彩が施された合掌はまばゆさに包まれ、私たちを感動に誘います。苦しい時代だからこそ、この作品の秘められた想いが一層心に響きます。

水元かよこ 「ゆめ日記」

Kayoko Mizumoto “Dream Diary”

水元氏は金沢を拠点に活動する陶芸家です。サブカルチャーの影響を感じさせる、大胆にアレンジされた作品は海外でも高く評価されています。茶碗というと茶道を嗜まれている方を除くとどこかとっつきにくい印象もありますが、現代の作家たちは新しい茶碗の在り方を探求し続けています。若い感性を感じさせる水元氏もそんな作家の一人です。

奥窪聖美 「乾漆切貝葉皿 『雨あがり』」

Kiyomi Okukubo Dry lacquer kirigai leaf plate “After the Rain”

広島出身の奥窪氏は、東京藝術大学で漆芸を学びました。現在は日本工芸会正会員として活躍しています。漆を用いた工芸技法である漆芸は、漆の高い接着性や強度を生かし作品を制作します。この作品は薄貝の裏に金箔などの箔を葉脈線を避けながら漆で繊細に張り付る切貝という技法で作られました。

満田晴穂 「自在提琴虫」

Haruo Mitsuta “Jizai Okimono - Violin Mantis”

写実的で実際に動かせるなど仕組みが施された金属工芸を自在置物と呼びます。明治期に数多く制作されました。高度な技巧を必要とする自在置物ですが、一種のロストテクノロジーとなってしまい現在は一部の作家を除いて制作されていません。満田氏は主に昆虫の自在置物を発表し、TV番組「情熱大陸」で特集されるなど大きく注目されています。この作品ももちろん可動します。それはさならがら金属でできたプラモデルのようです。